あたしは…夢を見ているのだろうか…

きっと夢だと思いたい…

悪い夢なら…早く覚めてくれればいいのに…

じゃあ…

肌に感じるこの焼けるような熱さは?

血がにじむほど箒を握り締めたこの手の痛みは?

腕の中でだんだんと温かみを失っていく感覚は…?

 

 

嫌な予感がした…エルフの血が混じっているからとか、もともと人が持っている第六感とかそんな事はあたしは知らない。
頭の中をリアの叫び声が貫いたような感じがして、心臓が速くなったり遅くなったり…。
「出して!!!ここから出して!!」
さっきまでもあたしは同じ言葉を叫んでいた。
いつものように悪戯をするあたしを反省させる為、あたしはこの物置に閉じ込められた。
でもあたりに人の気配…お父さんのいる気配は感じられなくて…多分谷に薬草でも取りに行ってしまったんだろう…。
扉を支えるつっかえ棒は思いのほか頑丈で、肩がひどく腫れ上がりそうになるほど体当たりをしても、ガタガタと木特有のきしみを鳴らすだけ。
急いでるのに。
出してほしいのに。
…。
…こんな事をしてさらに叱られるのはわかってる、でも、ごめんお父さん!
構えた手の中、マナがあたしの血で紡がれ大きさを増していく…。
いつもなら、火をおこす時の小さな火種としてしか使う事はない。
でも今は、それこそこの小さな納屋を丸ごと破壊してしまわないかと思えるくらいの威力を内包した熱の塊を…。
ごめんね、小さく呟いた。
「行っけぇ!!ファイヤーボール!!」
物置を形作る木の板は散り散りに吹き飛び、辺りに土と木の焦げる匂いが立ち込める。
物置にあった掃除用の箒を乱暴に掴み取り、残った木の壁を蹴り払う。
火の粉が少し服につき炎を灯したが、風より速く風を切る少女にはそんな事どうでもいいことだった。

 

箒を飛ばしてようやくハーメルの街に辿り着くと…そこはもうあたしの知るハーメルでは無くなっていた。
空からは熱気によって巻き上がった灰が降り注ぎ
街を形作る外壁は大きく崩れ落ち
辺りにあった店という店はもうすでにその姿を半分無くし、ゴウゴウと勢いよく炎があがっている。
ついこの前まで、美しい白い花をつけていたと思っていた木にも炎は燃え移り、枝をバキリと鳴らして側に落ちる。
辺りは煙で白く染まり、手を伸ばした先はきっと何も見えないだろう。
炎の音や瓦礫の崩れる音に混じって誰かが叫ぶ声が聞こえる。
炎の海。
延々途切れる事の無い、どこまでも続く炎の波。
信じられなかった。
信じたくなかった。
こんな事が起こるなんて。
足もとの瓦礫に足を取られて勢いよく地面に叩き付けられると…目の前には…すでに黒く、灰になりかけた幼い腕が瓦礫の下敷きになっていた。
「ヒッ!!」
思わず口を押さえて飛び退る。
今しがた取り落とした箒をも炎は掴み、引きずり込み、先ほどからずっとそうしているように…あっけなく飲み込んでいった。
まるで意思を持っているかのように。
まるで炎という名の生き物のように…。
ハーメルは…もはや街ではなくなっていた…。

あのカーニバルの時の色とりどりの風船達…
幼い子供のはしゃぐ声…
行き交う人の笑う顔…
もう見えない…もうなにも聞こえない…。
人ごみの中ぐいぐいと引っ張られたあの感覚…
『ほら、アーチェ!こっちこっち!!』
(…リア…?)
そうだった。
なにをこんな所で呆けているのだろう。
行かなくては。
探さなくては。
痛む膝を押さえて立ち上がり、顔についた泥を手の甲で拭う。
辺りに立ちこめる煙を思いきり吸ってはむせながら、ただ一人の名前を呼ぶ。
生まれて初めてできた友達の名を。
たった一人の親友の名を。

胸が燃え、くすぶるかのようにチリチリする。
目に煙が入ってか…目からは涙が、痛みが止まらない…。
ここ、神の信仰厚いハーメルにある教会の十字架を目安に…アーチェは白く濁った世界を手探りで進んでいた。
いや…正しくは教会の側のリアの住む屋敷を探していた。
しかし周囲の建物も先ほどのものと同じくし…もうかなり外見を留めておらず瓦礫の山となっていた。
それは…リアの所もそんなには変わらなく…。
「リア!!」
街の一角にしゃがみ込み何かを願いながら…いや、何かにとり憑かれたかのように瓦礫を掘り進む。
肺にいっぱいの煙を吸い込み、むせかえっては名前を…呼びつづける…。
息を吸うのも忘れるくらい、喉から血の味がするくらい…。
獣のように、狂ったように、泣き叫んでは瓦礫を掴む…爪は剥がれかけその指先は、もう誰の血だかわからない…。
暴れ狂う炎が雷雲を呼び、その手にポタリと雫を落とす。
瓦礫を掴む手が一瞬止まり…ゆっくりと、確かめるように視線が注がれる…。
目の前に映るのは…瓦礫の隙間に流れる琥珀色の長い髪…そしてべっとりと血で汚れた友の…頬。

「リア!リア、しっかりして!!」
ようやく抱き上げるほどまで掘り出した友の体は思わず抱き上げる事をためらうほど温かみを無くし…ゆっくり…確実に命を削っていっていた…。
「起きて!目を開けてよぉッ!」
その華奢な薄い体が壊れてしまうのではないかと思えるほど揺さぶっても、喉が破れてしまうほどの大声で叫んでも、リアはこれっぽっちも目を開けるそぶりは無くて…。
「リア…。お願いだから…お願いだから…起きてよぉ…。」
彼女のその血だらけの胸に顔を埋めてしゃくりあげる…フッと頭に何かが触れた感覚がして鼻をすする。
耳のすぐ側、もう聞く事が出来ないと思っていた声…。
「アーチェ…?泣いてる…の?」
顔を上げるとそこには女神と見まごうほどの微笑みをたたえた少女…。
「リア!」
その表情は段段と曇り…頬を濡らす…。
「ごめんね…アーチェ…、次の休みに約束してたピクニック…行けそうに無いや…。」
降り始めた雨が辺りの炎を弱め、そしてアーチェと…半ば冷たくなりかけたリアの体温を容赦なく奪ってゆく…。
「嫌だ、許さない。絶対一緒に行くって言ったじゃん…。」
ぐしぐしとこぼれ落ちる涙を強引にぬぐって話す。
「うん…でも…。」
「嫌だ!言い訳なんて聞いてあげない!!」
あぁ…あたしはこんな時なんて無力なんだろう…
いくらお父さんがよく効く薬の調合師として有名でも…それは風邪薬とか簡単な傷薬とか…
ほんとにどうしてもって言う時には…
こんな物…
何にも役に立たない…。
いつも携帯している薬袋を今までこんなにも憎く、呪った事はなかった。
「ごめんね…でも…あたし…もう…。」
「やだ!やだよリア!!そんな事言っちゃやだ!生きて…!!生きてる間は、生きる事を考えててよ!!」
ぎゅっと…その弱弱しく命の灯火を灯すか細い手を握り締める…あたしの手からあたしの命が伝わればいいのに…そんな事を思いながら…。
その白い手は白さを増して、もうすでに氷のようになっていて…。
その事が 無償に 悲しかった。
「アーチェ…。あたしも…死にたくないよ…。生きて…いたいよ…。」
段段と声が震えを帯びて…しかし精一杯の強さを…命の輝きを灯していた。
そして二人の頬に流れる涙は、落ち、土に染みを作り、乾いた大地に息吹を送る…。
「恋愛だって…全然してないし…、もっと…ずっとアーチェと一緒に 遊んだり はしゃぎあったり…した い…よ。」
するり 冷たくなった手が

落ちた

「リア!!嫌だ!いかないで!!」
冷たくなった体 動かない唇
アーチェの瞳からポツリ落ちた雫が少女のまぶたを濡らし一本の涙の筋をつける
まるでまだ温かみを残しているかのように…
まるでまだ彼女が命を紡いでいるかのように…
「生きたいって…一緒に生きたいって言ったじゃん!!」
その冷たくなった少女をしっかと抱きしめ、胸の奥から言葉を吐き出す。
「だから…!!だからもう少し…一緒に 生きよう?」

(…アーチェ…)
頭の中でリアの声が響いて…冷たくなったはずの彼女の体が徐々に温かくなった気がした…
あたりの景色がぐっと遠のき 目の前が白く 淡く霞む
その白く霞んだ先 気がつくとそこには冷たくなったはずのリアがいて
(泣かないで…)
そう言って瞳に溜まる涙をそっとぬぐう
じっと ひたすら見つめるあたしににっこりとリアは笑ってくれて
(ありがとう)
…と言って土と血にまみれたあたしの手を握ってくれる
…温かかった
二人握り合った手から白い…透明に近い光が生まれ
互いに足りないものを補っている
そんな感覚があたしをとらえる…
命が溶け合って流れ込む
白い光の中 もう一度 あたしはリアに話しかけた

 

…もう少し

…一緒に生きよう


あとがき
はい、霧夕です。
いかがでしたでしょうか?
444hitキリリクで『いつも甘めな物が多いのでシリアス物を…』ということでしたので
こちらを書かせていただきました。
本編や小説ではあまり書かれていませんよね…このお話…。
スキットでクラースさんがさらっと言ってくれますが、
それって大変凄い事なんじゃないんですか?!と思えて仕方ありません。
アーチェとリアの絆は深いという事ですよね。
悲しかっただろうな…初めての親友をなくす気持ちは…
そんな悲しみを乗り越えた彼女の微笑みは健気以外の何者でもない気がします。
いつかまた機会があれば幸せな二人のお話も書いてみたいなぁ…と。

こんな重くて辛い感じですがリクに応えられていたら幸いです。
こんなのでよろしければ444hitを踏まれました桐生 春臣様へ。
煮るなり焼くなりお好きにどうぞ☆
他の方は持ち出し禁止ですのでお願い致します。

それではここまで読んでくださった方々
どうもありがとうございました!!
(2004・6・30UP)

お詫び↓以下反転
申し訳ないです; 私勘違いしてこの小説内で大きな間違いしております。
読んでてアレッ?と思った方!すみません!見なかった事にして深く突っ込まないで下さい;
あああ、すみません!ファンタジア好きなくせにです。
この場を借りてお詫びいたします!ちなみに気が付いたのは 二ヶ月後…!!
…リアはハーメルの襲撃で死亡した訳ではなかったんですよね;; 申し訳ないです;
その頃にはもう…。な、はずなのに!はずなのに!!
…;; 純粋に読み物としてお楽しみいただければ嬉しいです;;
ホントごめんなさいっ!!