人は遠い未来、空を飛んだ。

魔術を使う事も無く、その身でマナを紡ぐ事も無く。

空は試運転にはもってこいといわんばかりに快晴で、雲一つ無いとは言わないもののやたら青さが強調されて、

浮かんだ月……シルヴァラントとテセアラがいつもよりハッキリ見て取れた。

しかし、だ。

快晴はまぁいい、雲が少ないのもいつものことだ、だが今日は……。

「暑い……」

苛立ちを表現でもするようにバタバタと手を前後に仰ぐ。

帽子があるからまだいいものの、それでも頭は汗をかき、頭皮が蒸されて気分が悪い。

「空を飛ぶ分には最高の天気なんだがなぁ」

呟いて見上げる先は、試運転は済んだのにまだ空の散歩を楽しむホウキが一本。

ヴォルトの力を注ぎ込み、より高くそして長時間飛べるようになった事がよほど気に入ったのだろう、

さっきから飛ぶだけでは飽き足らず、逆さになって飛んでみたり空に大きく弧を描いてみたり、

よくあれで頭に血が上らないものだと感心する。

しかしあれじゃあまったく子供みたいじゃないか、こちらもつられて笑いそうだ。

「お〜いアーチェ!! ヴォルトの力で長く飛べるようになってご機嫌だなぁ!!」

口の前に作った手のメガホンで呼びかける。

メガホンはそれなりの効果を発揮したらしく、聞こえたアーチェの返事がすぐに返ってくる。

「ねぇ!!これって他の精霊じゃダメだったのー?」

「そんな事は無い。現にペガサスの力で飛んだこともあっただろう?」

距離をとるか高度をとるか、どちらがより強い魔力を持っていたなんてことは、今からしたらわからずじまい。

だが精霊でもないのに強力な魔力を持つという所はさすが神馬というべきか。

「あぁそっかあ!じゃあなんでヴォルトじゃなきゃダメだった訳?」

「あ〜、それはだなぁ。帯電性質といって、ヴォルトの力は長く物に作用し続けるんだ」

「ふぅ〜ん……なんだかよくわかんないけど……まぁいいやぁ!」

まぁそう言うと思ったさと笑って答え、程々にしておけよと追って声をかけた。

どうやらウチの破天荒な魔女様はお空の旅に夢中なようで、

そのうちアクロバット飛行も開発しかねんと自然にそんな推測が頭をよぎる。

それにしても本当に嬉しそうに空をきる。

鳥の様というには少しダイナミックすぎるだろうが、例えるなら手を離れたばかりの紙飛行機のようなものか……

ただあの紙飛行機はどこまでもずっと飛び続ける。

手の中から放たれ、初めて空を飛ぶのが嬉しくて、加速して、風を切る。

上手く風に乗らなければいずれは落ちるものだろうが、そこが紙飛行機とは違う所か。

(なんだかどうにも不思議なものだ)

魔術を使うことが出来ない人間の私が魔術を使うことが出来るエルフに出来ない事をする……か。

私がヴォルトによって力を注ぎ込んだホウキを使い、アーチェが空高く舞い上がる。

エルフの血に出来る事、召喚士の力が出来る事。

魔術と召喚術の違い。

人間とエルフの違い。

そんな事、アーチェはきっと何も考えていないのだろう……、ただただ空高く飛べるようになったことを喜び楽しんでいる。

そんな些細なことはどうだっていい事だとでも言いたげに。

空を、とても気持ちよさそうに。

以前は。

半分であれエルフの血が流れる事を、魔術を使える事を羨ましく思ったはずなのに。

今はどうか。

そりゃあもし使えるのであれば使ってみたい気に嘘は無い。

学術的にどうなのか、証明、研究したくないと言えば……いや、どうかな? 今となればただの興味本位かもしれない。

「なぁアーチェ! やっぱりそれはホウキじゃなくちゃ飛べんのか?」

「そんな事無いよー!! デッキブラシとか飛んだ事あるもーん!」

着々と開発していくアクロバットの途中なのか、きりもみ回転しながら喋るので少々聞きづらい。

ホウキにデッキブラシ……か、となるともし私が空を飛べるとすれば……やはり……。

「それがどうかしたー?」

「あ〜……、いいや、何でもない!気にするな」

もし魔術が使えたとしても、私は空は飛ばん。

それだけは硬く心に誓おう、あいつにそしてこいつらに何を言われるかわかったもんじゃない。

空飛ぶ召喚士……、あぁ、それも勘弁願いたい。

まぁ言える事はそうだな、嬉しそうに空を飛び回るピンク色のあの姿は見ていてまんざら悪い気はしないというところか。

しかし……今日は本当に……暑い……。

 

 

五月晴れとはこの事か……。

 

 

 

 

 


あとがき
どうも、霧夕です!
クラースさん視点のこちらの小説『五月空』 いかがでしたでしょうか。
こちらは秋良 要様に相互記念として書かせていただいたものなのですが「霧夕ワールド炸裂で!」ということだったのですけれど、
いやいや、ここはクラース好きの秋良様なのでクラースさんを書かねば!!!と伸ばしに伸ばし;;
秋良様遅くなりましてすみません;
え〜、5月もおしまいになりまして、なかなかに暑くなってきた今日この頃、そんな中ふと空を見上げてみれば五月晴れというにはぴったりの天気。
そんな空を見ていたら「あぁ、きっとレアバードの試運転ってこんな感じの時なんだろうなぁ」と思い書かせていただきました。
あまり炸裂という感じではありませんが、少し暑い日の光と、楽しそうにそれこそ泳ぐように飛ぶアーチェさんが想像できればいいかなぁと。
ちなみにこの時クレス、ミント組は地上で地図を開きアルヴァニスタへの大体の方向を見ているという感じ。
もう一人は飛び回るアーチェを見て切羽詰って無意識で弓を弾いてればいいよ

そしてクラースさんに「あせるなよ、少年」と背中をポンと押されればいいよw

とまぁこんな感じになりましたがよろしければ秋良 要様へv
煮るも焼くも丸めてポイもお好きにどうぞ;;

ちなみにこちらは秋良 要様へ相互記念と言う事で書かせていただいたものですので
ご本人様以外の方の持ち出しは禁止
とさせていただきます
それでは最後までお読み下さった方々へ
ここまでお付き合いくださりありがとうございましたv
(2005・5・26UP)

 

 

しかし書き終わった後、本来五月晴れというのが梅雨の合間の晴れ日のことを指すモノで、
五月の晴れの日を指す事じゃないということを知ったのはここだけの話;;