「ねえねえ、アタシに料理教えてv」
ミントにそう言ってみたのは、前々から料理ができなかったからだけじゃない。
パーティーのみんな…クレスは元々剣士として必要最低限の料理ができるらしい、クラースは何だかんだ言って結構料理上手だったりする、あんの憎たらしいチェスターですら昔から家事をやっていたらしく自信タップリにばっちりだとか言っているし…実際そうだった。
みんな男の子なのに…アタシより料理ができる。
「ダメ…?いつまでも失敗ばかりじゃカッコ悪いじゃん?」
そうはいったけど…何よりミントと比べられるのが、たまらなかった。
美人なミント…透ける様に白い肌、鳶色の…一点の曇りもないすんだ瞳。
サラサラストレートの美しい金髪は思わずため息が出るほどだ。
胸だってアタシより全然おっきいし、料理だって抜群に上手い。
この間はベネツィア市長の娘の子にピアノを教えて、皆から『ピアノの先生』って呼ばれて顔を赤くしてた。

まさに女の子って感じ。
ミントはミント、アタシはアタシ…解っているけどこの考えが止められない。
バカって言ってよ、ねえ、…。

目の前には言葉に困った表情…
「えぇと…人には向き不向きがありますから…。」
苦笑いを必死に押し隠したその表情が何とかフォローの言葉を紡ぐ。
「…そう!他の事で取り戻せばいいと思います。」
「そっか…。そうだよね。うん、そうする!ありがとね!」
笑ってそう言ってみたけれど…ほんとはひどくガッカリしたんだよ?
…アタシには素質も何にも無いのかな…って。

それからアタシはミントが料理当番のたびに手伝いを申し出るようにした。
でも、手伝わせてくれるのは野菜を洗ったりとかテーブルのセッティングとか…多分包丁を握らせないのは、手を切ったりすると大変だからとかそう言う気配りなんだろう…。
その気持ちが痛かったし、他にも…待つ間の皆の顔、アタシが料理した時とは全然違う、嬉しそうな楽しみなようなその表情が…何よりも痛かった。

アタシの目の前のお皿にはミントが作った暖かいシチューが美味しそうな湯気を立てていたけど…。
どうしても食べたくなくて…
「ごめんね…アタシなんか食欲無くってさあ。ちょっと外で風にでもあたってくるよ。」
そう言って、少し体調が悪いだけのフリをして席を立つ。
「ごめんね。」
そう、誰も何も悪くない…だから本当に申し訳無くてごめんねを繰り返す。
だって、あのシチューを食べたらきっとアタシは泣いちゃう気がしたから…。

 

「あぁ…アタシ本当にカッコ悪いやぁ…。」
宿を出たあたしは皆に見つからない様建物の隅にしゃがみ込んで月を仰いでいた…優しい風が頬をなで通り過ぎる。
いつもつけているピンク色の手袋を外すと、指先には無数の切り傷…。
ミントにやんわりと料理を教える事を拒まれた日から、アタシは包丁を握り野菜や果物の皮むきから一人コッソリ特訓を始めた。
…何も始めなきゃ何も始まらない、そう思ったから。
じっと見つめるその指先がき急にぼやけてきて…たまらなくて…膝に顔をうずめる。
夜風はそんなアタシの頬をただ優しく乾かしてくれた。

一体どのくらいそうしていただろう…もうかなりの時間が過ぎていたのかも知れない。
あんまり帰りが遅いと心配をされてしまう。
「帰ろ…。」
そう呟いた言葉に相槌を打つようにお腹がキュウと鳴る。
なんだか一人だって気持ちがとんでフッと笑っちゃう。
お腹が鳴るのも無理は無い、体調が悪いなんて言ったけど別にそんなことは無い、むしろ体調はいつも通り快調だ。
よっし!と立ち上がり思い切り月に向かって大きく伸びをする。
「ん〜んんっ…っとぉ!!」
帰ったらこの腹ぺこのお腹にご飯を作ってやろう。
そうよ、始めから上手い人なんか居ないんだから!練習あるのみ!!がんばれアタシ!!
大丈夫、今日はミントが味付けするところとかばっちり見たし、難しそうには見えなかったし、多分…上手くいく…と、思う。
そうと決まれば全速前進!お尻についた砂をパパッと払って宿まで戻ることにした。
楽勝楽勝と呪文のように唱えながら…。

「…ただいま〜…。」
コッソリうかがいながら宿屋の扉を薄く開ける、よかった誰も居ない…そう確認するや否やアーチェは従業員に断ってキッチンへと滑り込む。
先ほども言っていたように今日挑戦するのは今晩も出たシチュー。
味付けや工程はばっちり見たし、レシピなどもコッソリメモに写してある…。
ふんっと鼻を鳴らして、半そでなので意味は無いが腕まくりのポーズをとる姿がそこにはあった。

 

40分後…キッチンのシンクには洗い物が山となりコンロの側には色々とこぼれた後が見え、それが彼女の奮闘っぷりを十二分に物語っていた。
そしてダイニングには先ほどまで料理という格闘をしていた少女がその成果を横目で見ながら机に突っ伏している。
シチューに手はあまりついていない。
ただプラプラとスプーンを振っては大きくため息をつくばかり。
「お?アーチェじゃないか、もう調子はいいのか?」
急に背後から声をかけられた、振り返らなくてもわかる…クラースだ。
質問には答えずに、主語の無い質問を投げかける。
「ねえクラース…やっぱダメなのかなあ…?」
出来たシチューはダマができていて野菜も大きさが揃っていなく火が通っていないものもある。
わけがわからなくていい、『何が』と聞かれればいつものようにへラッと笑って何でも無いと答えよう…そう思っていたのに思わぬ答えが返ってきたからビックリしちゃって飛び起きる。
「へ…?」
「だから、そんなこと無いんじゃないかと言ってるんだが?」
「な…!!」
何で言ってることがわかるの?!そう言おうと詰まったセリフより先にクラースが指を指す。
指先は出来損ないのシチューと…手袋が外れていた事を忘れていたあたしの手…。
「あ…。」
「…せっかく作ったのに食べ無いのか…?」
「へへ…失敗しちゃって…。」
情けなさそうに頭の後ろに手を回すあたしを見て今度は向こうが口を開ける。
「なに、失敗は成功の元と言うだろう?おまえは人より失敗が多い分そのうち大成功が待ってるかもしれんぞ?」
「なにそれ…全然フォローになってないじゃん。」
「そうか?なに、今日が駄目でも明日頑張ればいい、明日が駄目でもあさって頑張ればいい。そうだろう?」
腕組みをしたクラースが微笑みを浮かべながら言葉を連ねる…。
「私も昔実験で行き詰まったときは落ち込んでやっきになったもんさ。それになアーチェ、料理に大切なことを一つ教えてやろう…。いいか?料理はな…、『後片付けまでが料理』だ。もう食べないなら早く寝たほうがいい…ほら手伝ってやるから立った立った!!」
「え…ちょっ、クラース?!」
背中を押され二人の姿は戦場の後へ。

…さっきまでシンクに山盛りだった調理器具やお皿の山はほんとあっという間に片付いた。
さすがクラース、伊達に『しりにしかれマン』の称号は持ってない。
キュッと水周りと自分の手を拭いてキッチンから出てくると、机の上には奇妙な料理。
「…なにこれ?」
ご飯の上になんだか茶色い変なものがのって、まるで生きてるかのように動いている、なんだろ…コレ。
「これは『ねこまんま』と言ってな、手軽かつ美味い事からポピュラーな料理なんだ。」
上に乗っているのはかつおぶしで、これにしょうゆをかけて食べる物だということ、学生時代によく作ったという事を得意げに話す、そして…あんまりご飯を食べていなくお腹を空かせているだろうアタシにと作ってくれたことも。
ありがたくて涙が出そうだった…。
こらえつつ一口運ぶ。
「おいしい!」
その言葉を聞き、だろう?と得意げに鼻を高くする。
「まあ、初めはこういった簡単な物からやっていけばいいんじゃないか?」
落ち込むアタシを気遣う言葉…。

ありがとね、クラース…。


「…。でもさ、…これ料理とは言わないんじゃん?」


夜更けのキッチンに笑い声がこだました…。





あとがき
はい、どうも霧夕です。
えっとこれは未来入ってすぐのミントさんがあんまりにも女の子要素バッチリだったので
側にいたらちょっとはこんなこととか考えたりしないんかな〜と思い書いてみました。
個人的には
出来の悪い子ほど可愛いのですがね!
しかし読み手が変わればクラアーとも読めそうなこの作品…違いますよ?
ホント文才が足らないなあと思える今日この頃…。
…精進します。

では、このような長文を読んでくれた皆様どうもありがとうございましたv
〈2004/5/11UP〉