日が昇ったのだろう。
だんだんと数を増やす鳥のさえずりをテントの中で聞きながら
ぼんやりとしていた頭がだんだんとはっきりしてくる感覚に
アーチェは包まれていた。
枕は適当に畳んで丸められた自分の衣類。
そこからのっそりと上半身を起こすと、
絡まないように床に広げていた長いピンクの髪が、
今はチューブトップしかつけていない背中に広がった。
日が照り始めて間もないのだろう、
外気温よりは多少暖かいはずのテントの中ではあったが、
どうにもまだ少し寒い。
左右にまだ寝息を立てるミントとすずを眺めながら、
うっかり起こしてしまわないように、
外で着替えればいいかと、上着とリボンを小脇に抱え、
出来るだけそうっと立ち上がった。
後に残る毛布は自分の寝相のせいもあり、
くしゃくしゃにはなっているのが気になったが
畳んでいるうちに二人が起きてきてしまいそうな気がして
朝ご飯の後にでも畳めばいいかと端に寄せておいた。
外の冷たい空気がなるべくテントに入り込まないよう、さっと外に出る。
腕に、首に、一斉に鳥肌が立った。
(うぅ〜!!!さっむ〜い!!)
声にならない叫び声をあげ、衣類をギュッと抱える。
まだ上着を着ていない自分は、下こそいつもの格好ではあったが
上半身に至っては、肩も、お腹も丸出し状態だ。
歩行音をなるべく消す為に、草のある地面を歩きはじめる。
砂利の上では音が響くし、石の上ではふらついたら危ない。
なにしろ両手は今ふさがっているのだ。
ほてほてと歩いた先、夜中に火を焚いても眩しくない程度に離れた場所には
夜通し燃やされていた焚き火を囲むように
座るのにちょうどよさそうな丸太や岩が並んでいた。
その中のひとつに腰かけていたシルエットがこちらを向く。
「おう。お前がこんな時間に起きるなんて珍しいな」
そっけなくチェスターがそう言い、ふいと火に向き直ると、
手に持っていた小枝を火にくべた。
まあね、と一言言いながら、少し離れた丸太に腰かける。
石は、朝座るにはひんやりとし過ぎていてお尻にとっても優しくない。
これは『女の人は腰を冷やしてはいけない』というアレも入っているが、
冷たさに思わずひゃっと叫び声を上げてしまった経験も含まれている。
座って、目の前の焚き火に、抱えていた衣類をかざす。
肌はまだ鳥肌を多少立ててはいたけれど、
着る前に少しでも衣類を火で温めてからの方が心地が良い。
なるべく近くに火をかざしていると、薪が大きな音を立ててパチンとはぜた。
おっと、と思って慌てて手を引く。
「お前馬鹿だから、うっかり服燃したりすんなよ」
「ふん、失礼ね。あたしがそんな事しでかす訳ないじゃん」
そうは言いつつも急いで上着を頭から被る。
目まで襟元から出たところでチラリと横を窺うと、
向こうもこちらを見ていたようで視線が合った。
焚き火のせいか頬がやけに火照るのを感じながら手早く上着でお腹を隠し、
ベルトできっちりと留める。
「……なに乙女の着替えシーン見てんのよ。えっち」
えっちという言葉に反応してチェスターがボッと赤くなり、どもりはじめる。
「だ、誰がお前の着替えなんか興味あるか!
ぺったんこの寸胴なんて見ても何にも面白みなんてねぇよ!
大体その格好で出てきたのお前じゃないか。気になるなら着替えてから出てこいよ」
むっとした。もちろん。
ここで喧嘩を始めても構わないけれど、グレイブの一発二発かまそうものなら
、叫び声とやり合いで、多分全員を起こしてしまうんだろう。
命拾いしたわねという捨て台詞を心の中で呟きながら、立ち上がる。
「あたし顔洗ってくる」
水場どこ?と相手を睨みつけながら聞くと、
チェスターはぶっきらぼうに森の向こう側を指差した。
くるりと背中を向けると、扇状にふわりと髪が広がる。
早く街に着いて、暖かいシャワーを浴びたい。
体を石鹸の泡でこれでもかというほど包みたいし、
とびきり良い香りのシャンプーをするのが待ち遠しい。
水浴びでもそれはそれで悪くは無いし、
水が冷たければお湯を沸かして浸したタオルで体を拭いてもいいけれど、
外で髪を洗っても、乾かないので焚き火のお世話になるわけで、
寝るときに煙で燻された髪の香りに包まれるというのもどうかというわけだ。
十中八九、髪は痛むだろうし、枝毛も増えるだろうなぁなんて
乙女っぽく悩んでみたりしながらぽてぽてと歩いた。
後ろから「結構森の中だから気をつけてけよ」なんて声が聞こえたけれど
くるりと振り向いてべぇっと舌を出してやった。
小さく「ちぇ……」と聞こえたような気がしたのは、きっと空耳だろう。




あとがき
久しぶりに書いてみました。
起承転結、なんにもないよ!(笑)
けれど久しぶりに書いてみてちょっと楽しかった〜…

こんなですが最後まで読んでいただきありがとうございましたv
(2014・2・3UP)