夢を見た。
薄ぼんやりとした暗闇の中。
白いうなじが、じんわり闇から浮かび上がっている。
青色のリボンで結わえられた、ピンク色の髪。
高く結ばれたそこからハラリと零れ落ちたひと束が、きめ細やかな肌を伝う。
ふんわりとした産毛に包まれた、細い首。
柔らかな髪はそれをなぞり、うなじをなぞり、滑らかな曲線を辿って肩へ落ちる。
そこから先は、白の衣服に阻まれていた。
邪魔だ。
そう思い、衣服の隙間から手を差し入れる。
すると、ピクンと身体を小さく跳ねさせて声にならない声が漏れた。
けれどそんなものは聞こえない。
いつもの紫色のスカーフが、しゅるりと解かれ、床に落ちたのを最後に
どくん、どくんという自分の鼓動だけが耳に響き、
それがだんだんと早く、強いものに変わっていた。
どくん。どくん。
どくん、どくん。
身体全体が心臓になってしまったようで、さっきからそれ以外、もう何も聞こえない。
彼女の息遣いも、衣服のすれる音も、自分の呼吸の音も。
聞こえない。
手を伸ばして彼女の細い腰に手を添えると、ピクンと僅かに身がよじれた。
そのまま腕を回し込み、くん、と引き寄せる。
かくんという手応えの後、自分の胸に彼女の重みがかかる。
硬くしていた体が時間をかけてゆっくりほぐれ、胸に心地良い重みが広がってゆく。
頬を摺り寄せているのだろうか?
結い上げた長いピンクの髪が自分の頬を軽く撫でてくすぐったい。
むせ返るほどの甘い香りに、自分の背筋に甘い痺れが、徐々に下から上に駆け上がって来る。
「アーチェ」と耳元で小さく名前を呼ぶと、くっと顎が動いた。
赤く、奥底まで見通せてしまうようなルビーの輝きがこちらをのぞく。
ほんのりと上気した頬……、恥ずかしいのか涙で睫毛が濡れている。
規則正しく並んだそれに伏せられた視線。
それが一度ゆっくりと閉じられて、誘うように、また視線が絡む。
しっとりと水気を含んだ唇。
それに、唇をそっと重ねる……。
ヒクンとまた身体をよじった。
可愛らしい。
その反応が嬉しくて、次に首へ、鎖骨へと、唇を儀式のように這わせると
その度に華奢なその身体が小さく身をよじらせてゆき、
自分のタガが徐々に外れ、それから……。

 

 

水中深くに沈んでいる。
酸素が無くなってしまうギリギリ、死に物狂いで空気を求め水面に出た。
例えるならばそのくらい、一瞬にして大きく息を吸いこんだ。
ここはどこだ? 身体を僅かに動かす事もせず、頭の中を働かせる。
暗闇は暗闇だけれども、さっきまでの白の輪郭は跡形も無い。
かわりに部屋を白の光が、自分を白の大きな布が包んでいた。
(ここは……ベッド?)
ならばこれは夢かと吸いこんだ息を溜め息に変え、ようやくゆっくり吐き出した。
(……勘弁してくれよ)
甘い香りを含んだシーツを、しわになるほど強く握り
首をよじって鼻から他を深く沈める。
目を閉じて、さっきまでの残像を頭から追い出そうとすればするほど、
白く浮かび上がったシルエットが深くハッキリと脳に刻まれる。
鼓動がどくどくと、強く、早く脈を打つ。
(落ちつけ、落ちつけ、落ちつけ、落ちつけ)
首を軽く押し付けると、自分の汗で少し湿っぽくなった枕の奥から、洗剤の、
すずらんの香りが立ち上った。
人工的で、変わり映えのしない、ありきたりの爽やかさ。
さっき、首を埋めた香りとは全然違う。
むわっと自分を取り囲むように襲ってくる、首筋から漂うようあの甘さ。
そこに自分は浴びせるほどの口付けをして……。
(……っ落ちつけ!)
我慢しきれず足を折り。
自分にかかっていた布団を強引に引き寄せる。
頭まですっぽりと覆い尽くして、身体をぐぅっと縮め込んだ。
忘れろ、忘れるんだ、平常心を取り戻せ。
手が、しっとりと汗ばむ。
自分の身体のほてりのせいで、すっかり汗を吸いこんだ布団が重い。
空気も湿気を含んでいて、なんとなくどこか息苦しい。
頭の中で「平常心、平常心」と呪文のように唱えつづけると
ゆっくりではあったが、それでも確実に自分の中の緊張が解けてゆく。
ほぅ、と安堵とも溜め息とも取れない息を気づかれぬほど小さく吐いた。
(……勘弁してくれよ)
被っていた布団から外を覗き見ると
窓からは青い静かな光が差し、ベッドを順番に優しく照らしていた。
クレスやクラースは、髪や、頬にそれを受け、光に呼応するように
穏やかで規則正しい呼吸を繰り返している。
あの様子だと朝が来るまで当分起きあがりそうに無い。
良い事だ。
むしろ起きあがってきてくれるなよと、眠った顔に念を押す。
(クレスはこんな事無いんだろうな)
どうかは知らない。だがなんとなくそう思うと多少羨ましく。
(クラースの旦那は……。あんたのせいでこんな夢を見るんだ)
そう思うと、多少腹立たしかった。

 

 

それはひとしきりアーチェと言い争って、ふんと分かれた後だった。
砂利道に足を取られる。
「まったく。どうしてお前達は、どっちもがどっちもなんだ」
んあ?と顔を上げるとクラースの旦那が困った顔で帽子のヘリに手を添えていた。
「どっちもどっちって、何が?」
アーチェとの事を言ってるんだったら、半分は向こうが悪いんだろ。
普通の会話をしているつもりでも、気がつけば喧嘩か言い合いかそんなものになっている。
少し含んだ言い方になっている時もあるけれど、
それでもいちいち引っかかる事でもないものにお約束のようにかかってくるのは向こうだし。
口を尖らせて、それを言葉にしようとする。
クラースはその反論すらお見通しで。
「あぁ、違う、違う」
鼻の前に、「絶対にお前に止まってやる」とでもいう強固な意志を持つハエでもいるように
眉間に深いしわを寄せ、細かく首を左右に振った。
「お前とアーチェの事じゃない」
しかしそれはそれで、どっちもどっちだと心の声が聞こえてこなくもない。
「じゃあ、誰の事なんだよ」
「お前だ」
「はぁ?」
自分の首からゆっくりと頭が落ちてゆく。
「お前と、クレスの事だ」
俺と? クレス?
ゆっくりと自分の胸を指差し、次に先頭に視線をやる。
一列に並んだ1番前を地図を片手に歩いている。
赤いマントが歩くたびに風を受け、すぐそばに居るミントの背中を隠していた。
何か喋っているんだろうか?
盛りあがっているようには見えないけれど、何か会話をしている事は間違い無い。
前を向いていたクレスの顔が、何回も、時間を置いてミントの方を向き直している。
たどたどしくも、何か一生懸命話しかけているんだろうなぁと、
少し歩く速さを上げて、あの2人をからかいに行きたくなる衝動にかられる。
真っ赤になって「な、何言うんだチェスター!!」なんて、うろたえる姿が簡単に浮かんだ。
からかうと面白いんだ、これが。
そこまで考えて「おっと」と、そのまま視線を元に戻すと、 クラースがゆるゆると首を振り頷いた。
「俺と、……クレス、ねぇ」
距離的にちょうどその間。
自分とクラース、そしてクレスとミントの間で、アーチェが1人きりで歩いている。
いや、歩くというより踏み荒らすというのが近いかもしれない。
「アタシ、怒ってるんだから」とでもいう雰囲気を全身から噴出しているようだ。
水気を吸ってべしゃりとなった泥をはねさせて、転がる枝を選んで踏んだ。
ボキリと枝が折れた音が、歩くごとに続いている。
いくつもの足型と、それにまたがって折られた枝が転がっていた。

歩きながら、数を数えた。
枝の数は今現在で17本に及んでいて、
太いものから細いもの、長いものから短いものまで、
とにかく手当たり次第、見つけ次第に踏んでいる。
その17本目の側にしゃがみ込み、それを覗き込んでいた。
土砂降りの雨の翌日でなければ、枝の数は更に上をいっただろう。
思いきり踏みしめられはしたが、間一髪折られる事のなかった枝達は
それの代わりに泥でまみれて、枝の大部分が地中に埋められる形となっていた。

頬づえをついて、顔を上げる。
こうやってしゃがみ込んでいる間にずいぶん置いて行かれたもんだ。
「お前はもうちょっとクレスを見習え」
そう言ったクラースは道の先。
今度はクレスに似たような事でも言うのだろうか?
さっきまで一緒にいた割に、ずいぶんと先に進んでいる。
ぬめった泥道だというのに、あんなに早足で歩いていて、よく転ばないものだと感心する。
さっきから用心して歩いてはいたが、泥のせいで何回も足底が滑り、その度に肝を冷やしていた。
「見習え、か」
こんな時クレスだったらどう言うだろう。
目を閉じる。
「きゃ!」
「あ、危ないミント!」
「す、すみません」
「あ、ううん、いいんだ。それより足元危ないから気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
……って、ここで手のひとつでも握って行こうかとか言えりゃあ、クレスにしては上出来か。
それを自分は見習う訳だ。
眉間にしわが寄るほどにまぶたをきつく閉じた。
答えは。
「あー……。そりゃちょっと無茶ってもんだろ……」
相手はあのアーチェだぞ? と問いたくなる。
おまけにさっき怒らせたばっかりだ。
自分とアーチェとの間。あの距離に、踏み折られた枝はあと何本あるだろう?
だんだんと、折られた枝の間隔が開いていた。
枝もだんだん細いものばかりになっていた。
力任せに枝の太さも気にしないほど怒り狂っていたものが、多少は落ちついているんだろうか?
そう思いたい。
なにはともあれ、最前列と最後尾。いくらなんでも離れ過ぎだ。
「そろそろ行くか」
伸びをするように立ちあがり
「気が向いたら声でもかけてみるか」なんて、思ってもいない事を口にした。

 

昨日雨が嫌という程降ったからといって、明日が天気になるとは限らない。
今日の雲はそれの実証であるかのごとく、
頭上で「わかったか、お前ら」と一面に大きな顔をしている雲だった。
泣き出しそうだなんて、そんな繊細さはこれっぽっちもない。
膨らむだけ膨らんだ、バカみたいに大きな図体をしているくせに、
外見も中身も厚かましくて、少しでも身体を小さくしようなんてまったく考えていない奴だ。
お陰でその身体に阻まれた太陽がいい迷惑で、隙間から顔を出す事もできやしない。
明日になったらどいてあげなくもないよ、なんて言いそうで
空を眺めているだけなのに、気分が悪い。

17本目から先は数えていなかった。
足元をすくわれないように気をつけて、慎重に足場を選んで歩いていると
意外にあれだけあったアーチェとの距離が、もうかなり縮んでいた。
自分が早く歩いたんじゃない。
どうも前方をたどたどしく歩いているアーチェを眺めていると、そんな仮説が脳裏に浮かんだ。
(あぶなっかしいな)
そうは思っても、敢えてそれを口に出さない。
さっきから多少の音は聞こえているつもりだが、
パキパキと鳴る木の音がアーチェの怒っているそれかどうかがわからなかった。
なんとか表情を読み取ろうとしてみても、
後ろからではピンクの髪と、スカーフで隠された首筋が、たまに垣間見えるくらいだった。
泥に足を滑らせて、またもアーチェの四肢が大きく揺れる。
(危ない! あ、いや大丈夫か)
こういう時クレスだったら「大丈夫か?アーチェ」とかなんとか簡単に声を掛けるんだろう。
出来ない。
それがなんともはがゆい。
(そんくらい簡単に出来りゃ、苦労はしねぇんだけど、な)
と呟いて、
そんなもんかなぁ?
とぼけた口調で頭の中の親友が答えた。
そんなもんなんだよ。
ぶっきらぼうに返答をした。


細い坂道に入った。
歩くために舗装をされていない段には、幾多の旅人の足跡のせいで内側にくぼみができていた。
ちょうど雨の日にはそこに雨水が溜まるようになっているのだろう。
陶芸家が喜びそうな、粒の滑らかな泥がそこに溜まっている。
そうはいっても陶芸家はここにいやしない。
もちろん陶芸家にこの泥を届けようなんて思う奴もいない。
そんなわけで俺達は順番にその泥を踏んで歩いた。
陶芸家が喜びそうなその泥は、旅人にとってはあまり喜ばしくないだろう。
ぬめるし、すべるし、危ない事この上ない。
自分のブーツがすっかり泥にまみれているのなんて、火を見るより明らかだ。
そのいい実証が、目の前で歩いている。
よたよたと、周りの木々に掴まりながら歩くアーチェのブーツは、
すっかり泥にまみれて茶色に染まっていた。
おまけにブーツを汚すだけでは足りないのか、濃いピンク色のズボンにまで泥が飛んでいる。
一本道であるせいで、追い抜く事もできず、ピッタリと後ろにつく形になっていたので
そんな細かなところまで良く見えた。
もちろん追いぬこうと思っていたなんて事は微塵もない。
むしろ足でも滑らせて落っこちてきたら、仕方ない受け止めてやるかくらいの気持ちだ。
なんて。
せめて出来て、後ろによろめいた時に大丈夫かよなんて声を掛けるくらいなんだろうな。
ひょこひょこと歩く姿がだんだんと愛しく思えてくる。
樹の幹に掴まり、歩くたびに揺れる髪から、なんともいえない甘い香りが漂う。
香水でもなく、シャンプーでもなく、アーチェ自身の香りだろうか?
男にはない甘い香りが、目の前の『女の子』から、
『女の子』のその汗ばんだ首筋から漂ってくる。
ごく……と自然と溢れ出した生唾を飲み込んだ。
白い上着に隠れてはいるが、
目の前で上下する丸い小さなふくらみに視線がゆっくりと落ちてゆき、慌てて目を逸らす。
「ちょっと」
止まった歩みに、「おっと」という声を上げて自分の足も止まる。
「うしろ、ついてこないでよ」
怒りを含んだ声が降ってきた。
くっと視線を上げると、首だけを振り返らせアーチェがこちらを睨んでいた。
頭の中を包む甘いもやがゆっくりと晴れて、「ついてこないでよ」という言葉が浮かび上がる。
見られたんだろうか?
そう思った瞬間、心臓がどくっとうずき、いつもより早く血を送り出し始めた。
手の平が熱い。
血が激しく行き渡り、指の先まで張っている錯覚すら起こす。
続く山道を登っていたからできた汗の玉に、それとは違う汗が身体から吹き出た。
「っ、お前が歩くの遅いからだろうが」
平静を装えているだろうか?
勝手に口から紡ぎ出される言葉より、そっちの方が気にかかる。
口元をキュとへの字型に結んだアーチェより、だ。
「しょーがないじゃん! 足場悪いんだから」
あぁ、どうやら気づかれてはいないらしい。
心の中で、ほっと胸を撫で下ろした。
「そんなに文句があるなら先に行ったらいいじゃん」
ほら、と小さな身体が樹に擦りつくように寄せられた。
それでも道の幅は狭く、人1人通り抜けるには少し足らない。
お互いが身体を擦り合わせなければ通り抜ける事も出来ないような細道。
それに思わずたじろいだ。
何もこんなところで先に行けなんて言わなくても、他にいくらでも道はあるだろうに。
「ほら早く」
くいと、先に先にと促すようにアーチェが首を小さく振る。
どうやら行くしかないらしい。
覚悟を決めろ、そして落ちつけ俺。
「行きゃいいんだろ。うるせーな」と悪態をついて、
心の中で平常心平常心と呪文を唱えた。
いっそう強く香る甘い香りが、辺りと自分の思考を埋めてゆく。
「ちょっと、あんまり押さないでよ。狭いんだから」
「んなこと言っても」
上手く動けない。
いや、これが相手がクレスやクラースなんかだったら、どう動こうが、どう当たろうが構いやしない。
けれど無理だ。
香りが、体温が、柔らかさがすぐそこにある。
なるべくそれに触れない様に通りぬけるなんて、なんという地獄。
これが天国になんて成り得るものか。
こんなの地獄だ。生殺しだ。
「んな事言ったって、こんなとこで先行けって言ったのはお前だろうが」
「言うには言ったけど、だってせま……」
左に居るアーチェを避けて、右に大きく足を踏み出したせいで
自分の身体にお尻の、あの小さな丸みが触れた。
それだけならまだいい。
事もあろうに「狭いから早く通って」と、アーチェが樹にさらに強く身体を沿わせようともぞもぞ動き、
自然と身体に触れた部分も同じように擦れる。
本当に、なんという地獄だ。
嬉しがっていいのかわからないこの状況に、何度そう言ったところで飽き足らない。
心の中で唱える「平常心」という言葉が、もはや原型を留めない。
ヘイジョウシン? それってどんな時の事だっけか?
……もういい、限界だ。
「狭くてしょうがねぇからお前先に行け」
頼むからお前が先に行ってくれ。
「だって……キャ!!」
もっと、もっとと身体を小さく、樹に擦りつけようとしたのか、アーチェの身体がかくんと折れた。
滑っていく足元に、反射的に腕が伸びた。自分の腕も反射的に伸びる。
音を立てるほど強く腕を掴み、そのまま何も考えず引き上げる。
自分の片方の手は確か道の端の樹を掴んでいたはずなのに、
いつの間にやらアーチェを抱え込んでいた。
腕の中に、自分の物ではない体温を感じる。甘い香りが襲い掛かるように立ち上る。
アーチェの首筋を流れる汗が、白い首を伝ってスカーフに、じゅんと吸いこまれてゆく。
「ビ、ビックリしたぁ……」
アーチェは滑った自分の足元を、恐らくまんまるに目を見開いて眺めているんだろう、
首筋にかかるピンクの髪がくすぐったい。
ドッドッドッドと、音を立てる。
心臓が、破裂しそうだ。
こっちこそ驚いた。違う、まだ驚いている。
早く腕を放すべきなのに、まだ絡めていたいと、腕が離れない。
下手をすれば叫び声を出されて全員の注目を買うか、
それでなくとも嫌がられるかもしれないのに。
いや、なにより今の自分の状態を悟られたらどうするんだと自分で自分を叱り付け、
なんとかごく自然に腕を解いた。動悸はまだ止まらない。
身体を痺れる何かが埋めてゆく、だんだんと頭が霞がかる。
悟られるな! 胸の中を「ヘイジョウシン」という、
もはや意味がわからなくなった言葉で塗りつぶしにかかる。
乱暴に。塗りつぶせなくても、塗りつぶす。
「……お前もう先に行ってろ」
続く言葉を何も言わせる気もなくて、乱暴に坂の上へと腰を押した。
アーチェが「わっ」と小さく叫び声をあげるけれど耳には何の音も届かない。
頼むからお前が先に行ってくれ。

耳の中で、
納まる気配の無い自分の鼓動と、
平常心と唱える声だけが永遠かと思える時間響いていた。

 

 

そしてその晩、あの夢を見る事になる。

 

 

 

 

 

 

 


あとがき(反転)

エンドレス。

優しい兄貴でも大人っぽくても、そんな彼も『17歳』
なので、クラースさんがピンナップマグを所有しているように、
彼にもそんな所があってもいいかなとか。

(2009/3/4 up)