オンナノコ。
女の子というものが僕はよくわからない。
女の子っていうのは、そう…なんていうか…白くて細くてそしてどこか甘いような香りがして…はかなさを感じるほどの花に似ているような、それでいてしゅんとしおれていたかと思えば何かのキッカケで息を吹き返す強さがあって…どうにもこうにも掴み所がわからない。
おっかなびっくり扱っても、なんだかちょっと違うような…とにかく、どうしていいのかわからない。
何を話していいのかなんてわからないし、興味のあることもきっと全然違うと思う。
だってほら、狩りの話なんかで盛り上がれるなんてありえない。
女の子どうしの話で盛り上がってるところに一人コッソリ聞き耳を立てても、どうにも入る余地が無い。
そんな時思う。
やっぱり僕らは違うんだなって。
何でこんなにも違うのだろう?体つきも考え方も、この手一つでもこんなに違う、多分…オンナノコはもっと白くて柔らかい。
いつからこんなに違うのだろう?気が付いた時にはもう初めから違っていた。
僕らは競って木に登り、枝を振り回し家畜を追って駆け回り、最後には道具屋のおじさんや近所おばさん達に追いかけられる。
もし上手く捕まらなくても、最終的には怒られた。
古布を使ったマントをしても、木の葉で作ったお面をしても、なんでかおじさん達にはお見通しなんだ。
小さい頃は本当に、それが不思議でならなかった…今思えば吹き出してしまうんだけど。
オンナノコはおじさん達に追いかけられる事なんて無い、むしろ逆に捕まえちゃうんだ…『おままごとの役者として』ね。
綺麗な景色の場所にマットを広げ、どこからか持ってきた食器達と、各々持ち寄った自分の人形。
腕に抱えれちゃうほどのクマの人形はお父さんで、目に星が飛んでいるような人形はお姉さん、足らない分は誰かを捕まえ、僕も結構捕まった。
そして食べさせられるんだ、泥団子や砂団子を。
見た目は皆同じなのに、オンナノコ達は違うように見えるらしい…こっちがご飯であっちはおかず、僕にはサッパリわからない。
とりあえず、僕にはそれが退屈で、何が楽しいのかわからない。
何でオンナノコはこんなのが楽しいのかな?
ほら、もうこんな所からわからない。
あの頃はわかろうとなんて思った事は無かったと思う…最近なんだ…わかりたいって思ったのは…。
オンナノコについてわかりたいんじゃない。
大きな声ではいえないけれど…君のこと…わかりたいんだ。
小さかった頃の事、一番思い出に残ってる事…なんでもいい、君のことが…聞きたいんだ。
はぁ…。
切実に…御教授願いたいよ…。
ホントに僕は、『オンナノコ』がわからない…。

 

証言1
「あ?いきなりンなこと言われてもなぁ…まぁ、なんかよくわかんねーけど甘いものとか一般的に好きだよな」
たしかにそれは良く知っている…、アーチェなんかを良く見ていると普段のご飯を食べた後によく間食をしているのがわかる。
この間もシュークリームに思い切りかぶりついて、口の周りをクリームまみれにしていたほど…、そういやその後チェスターに指をさされて笑われてたっけ。
へそを曲げて怒ったアーチェはチェスターの分まで食べちゃって、そして喧嘩に発展した。
いつものことだ。
しかし間食するくらいなら、ちゃんとご飯を食べればいいのに…そう疑問を投げかけると、チチチっと指を振ってこう言った。
良く聞く言葉だ、こういう時は。
『甘いものは別バラ』だ…と。
胃の中が器用に二つに分かれていたり、実は胃が二つあったり、そんな事は当たり前だがあり得ない。
だがしかし、一つだけ事実がある。
甘いものを食べている時の『女性』はこれほどにまで無い嬉しそうな顔をする…いや、食べる前からかもしれない。
包みを開ける時、メニューを選ぶ時、事甘いものに関しては迷う事は女性の幸せなのだろう。
…まあ世の中にはそうでない人もいるのだろうが。
幸いな事に彼女はその中には入っていない。
それは…本当に良く知っている…。

作戦1
コンコンとノックをし、軽く扉を押すだけだというのに妙に背中に冷や汗がつたう。
片手はドアの前でグーの形で固まって、もう片方は白の四角い箱を下げる。
一応好みの物が間違っていた時のため、種類は人数よりも少し多めに見繕った。
ここにつくまでその白い箱を、それこそ自分でもおかしいんじゃないかってほど地面と平行に保ってきた、だから全てまとまって一つになってるなんて悲劇的なことはきっと起こっていない…はず。
や、大丈夫、だろう…それに今更こんなドアの目の前で箱の中身を覗けはしない。
よ…よし、行くぞ!
鼻から大きく息を吸い込んで、ガチャリとドアの取っ手を押した。

「わ〜っ!すっごいいっぱいのケーキだぁー!!え?ちょっとクレスどうしたのこんなに?」
少し悲しきかな、最初の第一封はアーチェによって開けられた。
まぁ…それはそうか、一番先にミントが開けるのは、多分…珍しい。
いいんだ、彼女がこれを見て喜んでくれれば。
その為の…ケーキなんだから。
「うん、ちょっと美味しそうだったから皆喜ぶかと思って、どれがいいかよくわかんなかったからちょっと多めに買って来ちゃったんだけど…どれでも好きなの取っていいよ?」
やったぁ、と思い切り嬉しそうな声を張り上げ、ニコニコしながら一品一品見定めている。
おいしそ〜と唇を軽くなめて「ね?」と隣に視線が走った。
隣は控えめに微笑む聖女の笑顔。
「ええ、とても可愛らしいものばかりですね」
そしてなぜかアーチェの胸の前では手が互いの指の隙間を埋めるように組まれていて…なんだか少しお祈りに似ていた…。
ケーキに対するお祈りだろうか?
「お!俺このタルト取りぃ!」
「あっちょっと何勝手に一人でどれにしようか決めてんのよ?!こういうのはみんなして平等に決めるもんでしょうが!ね、ミントはどれがいい?」
「え、あの…」
僕の予想では…白いふわふわのわたのようなクリ−ムの上、パンジーの砂糖菓子がちょこんとさりげなく乗ったやつ…。
名前はなんて言ったか覚えが無いが…とにかくその雰囲気がミントにピッタリだと思った。
「私は…」
多分、間違いがなければ、これだ、と思う…。
「私は…その、ちょっと遠慮しておきます…アーチェさん、よかったら食べて下さい」
え…と、予期せぬ返事は耳に大きく反響して通り過ぎる。
僕は今一体どんな情けない顔をしているのだろう。
えっ?!本当?と両手を上げて喜ぶアーチェの姿とはまったく対照的と言ってもいい、そんな顔を僕は今しているだろうか…。
「じゃ、クレスはどれがいい?」
胸の中で小さく落胆の溜息をついて、一息の後ニコリと笑う。
「あ、いや、いいや。なんだか見ていたら、お腹一杯になってきちゃったからさ。もし後で何か残ってたらいただくよ」
ふらりふらりとした足取りで、入ってきたドアを押す…気のせいか、入ってきた時よりもどうにも重さが感じられない。
閉める直前のドアの隙間から「んじゃあここはレディファーストという事で!」という元気のいい声が響いてきて…
僕はパタンと扉を閉めた。

 

証言2
「ん?そうだなぁ〜けっこうロマンチックなのとか好きだよねぇ。素っ敵〜な夜景とか恋人達のスポットとか?でもやっぱ一緒の人によるんだよねぇああいうのって。贈り物で気を引くってのもアリだろうけど、好みじゃないのや、そう大して好きじゃない人に物貰うのはやっぱなんかちょっと…ね。でもま、クレスならホント絶対大丈夫だと思うんだけど」
試してみれば?こともなげにそう言った。
僕はそんな言葉に顔を赤らめブンブンと首を振るばかり。
彼女は多分…たいがいの場所なら喜ぶだろう。
旅をしていた頃は色々な場所を歩いたがあまり嫌な顔は見た気がしない。
それどころか、いつもどこか微笑んでいるような気がしてしまう。
通りをすれ違う子供に微笑み、木を駆け上る動物に微笑み…今でも覚えている…君がはじめて船に乗ったと言っていた時。
船の手すりに身を乗り出し、帽子が飛ばされないように抑えていた。
波の音で自分を満たすように目を閉じそして耳を立て、くるりと身をよじって嬉しそうに笑った。
揺れる波は日に照らされてきらめいて、君の瞳もきっとそれを見てきらめいたろう。
もっと君の笑顔が見たい。
そう、出来れば僕の手で…。

作戦2
以前のケーキでも思った事だけど…やっぱりどうにも二人っきりという空間に持ってくるような勇気が今の僕には無いようで…おかげで前回はケーキの入ったガラスケースにへばりつき、今回は女の子ばかりが入ってくる店で妙な居心地の悪さを味わっている。
ロマンチックな場所に行った日には、ほんとうに何を話していいのかわからないから…プレゼントという消極的ながらも…な行動にした。
精一杯なんだ、多分。
パステルカラーに彩られた店内は見上げると昔よく見たような瞳の大きな人形や、女の子らしくレースのカーテンなんかが飾ってある。
そんななかに軽装とはいえ鎧をまとった男が、しかもたった一人でいれば視線は集中するのは当然か…さっきから奇異の目が背中に刺さる。
こんな事なら誰か連れてくればよかっただろうか…溜息混じりにコソリ呟く。
しかし早くここを出たいという気持ちとは反対に品物を選ぶ手は慎重だ…。
一体どれがいいだろう…店員の誰かに声をかける勇気も無く、とりあえず端から順に手にとっては眺めてみる。
まずはこれ…四角いキューブ型の透明な飾りの中を虹色に反射するラメが泳ぐ、飴のようなおもちゃのような指輪。
まぁ…可愛いといえば可愛いのだろうが、どうもあまりイメージではない。
本人のイメージでもないし、好みそうなイメージともまったく違う。
それに…これが『指輪』だという事がよろしくない。
指にピッタリのサイズをそういえば僕は知らないし、どうやって聞き出せばいいかもちょっとした難問だ。
大抵のサイズでも入るように指輪の端に切れ目のようなものが入ったフリーリングというタイプもあるが、それは…少しかっこ悪い。
いや、問題はそこじゃないな…サイズがわからないとかそういうものじゃなくて…、おもちゃのようでもこれは立派に『指輪』なんだ。
だから…急にそんなものを渡されても困ると思うし…うん、…指輪はとりあえず対象から外す事にした。
渡すのは、今じゃない。
…次。
ええと、これは…なんだろう?白いレースの…スカーフかな?
きっと手編みで作られたであろうレースのスカーフは、その表面に可憐な花模様が編まれている。
うん…これなんかいいかもしれない。
控えめに編みこまれた花のモチーフなんかもイメージだし、手編みという事でなんだか温かみがある。
…でもちょっとまてよ…?
いくら良くてもこれはスカーフ…はたしてミントが使うだろうか?
…う〜ん。
…惜しい、次。
そうだよな、…やっぱりミントのイメージは白。
それも真っ白の純白だ、そして少し控えめな感じ…。
そう…あそこにかかっているネックレスのよう…な…?!
「…って、あったぁ!!」
しまった…!慌てて口を塞いだけれどもう遅い。
はたと気が付けば、ただでさえ目立つ格好なのにいきなり大声を出して商品を指差すものだから、店員や、ほか店内をまわっている全ての視線が集まっていた。
そう…この僕に、だ。
目当ての品を買った僕は、それこそ逃げるように店を後にした。
…ように、というのは間違いかもしれないが…。






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